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港のひと
港のひと・002・創刊2号
2002年5月20日発行
004◆源頼朝の連歌-白井忠功
 鎌倉幕府の創始者・東国武士の棟梁として活躍した源頼朝(久安三年〈一一四七〉?正治元年〈一一九六〉)は、和歌・連歌にも優れていたことは余り知られていない。いま、彼の文学的な側面、とくに連歌について記述してみたい。
 鎌倉幕府の歴史書『吾妻鑑』(『東鑑』)を披見してみると(『全譯吾妻鑑』)、
 建久元年(一一九〇)十月十八日、已亥。
 橋本駅において、遊女等群参す。繁多の贈物ありと云々。これより先、御連歌あり、
 はしもとの君にはなにかわたすべき
 頼朝
 ただそまかはのくれてすぎばや
 (梶原)平 景時
 が、最初の連歌についての記事である。(連歌は、和歌の上句と下句とを交互によみ連ねるものである。上句・下句の唱和〈短連歌〉は古くからあった)。
 頼朝は奥州藤原氏を討滅後、上洛して後白河院と会見して、権大納言・右近衛大将に任ぜられたのである。その上洛の道中、橋本(今の浜名湖の南西の新居町)で詠んだ短連歌である。この連歌は連歌集最初の『菟玖波集』(二条良基撰。延文元年〈一三五六〉。日本古典全集)に、次のように記載されている。
 建久元年上洛し侍りし濱名の宿につきて酒たうべてたたんとしける
 橋本のきみには何か渡すべき
 前右大将頼朝
 ただ杣山のくれてあらばや
 平 景時
 頼朝、景時主従二人が詠んだ短連歌の様子が記されている。「橋本の遊女たちへ何を贈ろうか」という頼朝の前句に、「祝儀をやればよろしいでしょう」と付句を景時が詠んだことの当意即妙が興味ぶかい。「杣山の槫というのを呉れの意に転じ、纒頭(祝儀)をやればよろしいと申し上げ、日の暮れを待っている様子が見える」と解釈もある(前書)。
 『菟玖波集』には、頼朝と景時の短連歌について、次の記載がある。
 秀衡征討の為に奥州にむかひ侍りける時、名取川を渡るとて
 我ひとりけふのいくさに名取川
 前右大将頼朝
 君もろともにかちわたりせん
 平 景時
 頼朝の泰衡・秀衡の追討は文治五年(一一八九)七月十九日「頼朝泰衡追討のため奥州に進発す」(『吾妻鑑』第九)であった。その折りの短連歌と思われるのである。前句は「名を取るに陸前の川名をいいかけ」、付句は「かちわたりに戦勝を兼ねさせひとりに対し、もろともに」と付けたのである。頼朝の得意、景時の機智を窺うことができるのである。
 『吾妻鑑』にみえる上洛の記事を記すと、「建久元年(一一九〇)十月三日、頼朝上洛のため鎌倉を進発す」。「建久六年(一一九五)二月十四日、頼朝東大寺供養臨席のため鎌倉を出発す」。「三月四日、頼朝入京」とある。頼朝が征夷大将軍に任ぜられたのは、建久三年(一一九二)七月十四日であり、実朝出生が八月九日であった。
 次の短連歌は、頼朝が二度目の上京の折りに詠んだものと考えられる(『菟玖波集』第十九)。
 前右大将頼朝上洛の時、守山を過ぎけるに、いちごの盛りなるを見て、連歌せよと云ひければ、
 もり山のいちこさかしくなりにけり
 平 時政朝臣
 むばらがいかにうれしかるらん
 前右大将頼朝
 この付合については、『古今著聞集』(巻第五。和歌第六・二一五。日本古典文学大系)に、「右大将頼朝北條時政と連歌のこと」として、
 同大将、もる山にて狩せられけるに、いちごのさかりに成たるをみて、ともに北条四郎時政が候けるが、連歌をなんしける、
 もる山のいちごさかしく成にけり
 大将とりあえず、
 むばらがいかにうれしかるらむ
 とみえる。「守山」は、滋賀県野洲郡守山町、「いちこ」は市子で町家の子供、口よせのみこのこともいう。前句「守山の市子は怜悧になった」、付句は「姥たちがどんなに嬉しがることやら」というのである。市子に苺、うばらは縁語、もるはまもる。養育するの意のもると守山とを掛けた語であり、「さかし」は盛りである意、「むばら」は、いばら(茨)の意と乳母等を掛けた語である。
 また、『菟玖波集』巻第十九に、次の付合が記載されている。
 狩に出でける道に狐の走り出でたるを見て、
 白げて見ゆるひる狐かな
 前右大将頼朝
 契あらば夜こそこんといふべきに
 平 景時
 頼朝の富士野藍沢の夏狩りに時の詠である(建久四年〈一一九三〉五月八日)。前句の昼。付句の夜。狐の白、夜の黒の対比と「来んというのに狐の鳴き声をコンといひかけて」付けた即興の面白さがみられる。
 頼朝の連歌の相手が景時であったのは、当時の武士のなかで、彼が抜群の詠み手であったことの証左であろう。
 頼朝の和歌二首が、第八代勅撰集『新古今和歌集』に入集している。勅撰集入集は名誉であり、歌人としての名声の高さと実力を物語るものがある。三代将軍実朝は父の和歌を早く見たいと懇望したという。
(拙稿「連歌師と鎌倉」による。季刊『悠久』第70号「特集中世文学と鎌倉」、鶴岡八幡宮編集、おうふう刊、平成九年七月)
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