港のひと
港のひと・002・創刊2号
2002年5月20日発行
022◆現代詩の奇蹟笹原常与の詩集『假泊港』-嶋岡 晨
 純粋で靱い精神の、長い年月に及ぶ持続を、このように明確な様態で見るのは、極めて稀なことだ。「貘」の旧友笹原について、詩「木」を引用しつつ、かつてこう書いたことがある。
 「……こうした、独自のモダーンな形而上学的感性は、しかし〔略〕……表現を、上滑りの幻想にながすことなく、生活現実にしっかり腰を据えた〈認識〉に繋ぎつつ、つねに『良心』――詩的モラルに恥じないものとした。年齢をかさねるごとに、無理なくその〈木〉的感性は純潔性をたもちながら、成長した。現代詩のひとつの奇蹟といっても、おかしくはない」(詩学連載「わたしの現代詩人事典」)
 第一詩集『町のノオト』(昭33、国文社)第二詩集『井戸』(昭38、思潮社)ですでに充分、優しくも凛然と確立・確保されていた、笹原常与の世界――それが核心をほとんど変えず、四十年をへて表現内質に少しの損傷もなく、いわば純潔な若者の感性の鮮かさを保って、第三詩集『假泊港』に繋がっている事実に、驚嘆しない者がいるだろうか。
 今日の現代詩の奇蹟、とこれを形容して大げさとは思えない。変動汚濁のはげしい詩界流行のさなかに立って、おのれの個性を保つこの靱さ。それも一つのパタンの鈍い反覆ではなく、たっぷり時間にもまれ必要な新しさを自覚しながらの成熟そのもの、自信にみちた独自の入念な〈方法〉の発展なのだ。
 「在るべき『自分』にむかって/高く 高く昇ってゆく」その際限のない繰り返し(「エレベーター」)が、じつは日々の微妙な革新であり、固定的反覆ではなく優雅に流動的な「生きることの意味と/『在る』ことの理由」の刻々の探索であること(「浚渫船」)に気づいた読者は、粛然と戦慄を覚えざるを得まい。
 この詩史上に燦然たる孤独の記念碑が、書肆港の人の名を不滅とするのも確かだろう。
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