『四月と十月文庫7 理解フノー』
本書の詳細

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■本書「「理解フノー」の始まり」より
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 呑べえ横丁は、小さな運河のような川の上に、同じ狭い間口の三十軒ほどの飲み屋が連なって看板を出している、酒飲みにとっては頼もしい景色の長屋だ。その中から鬼灯を選んだのはカンだったが、なかなかよい店だった。ほやの刺身など魚類の肴がよかったし、酒もうまかったし、おかみさんも愉しいひとだった。私は、とくにほたるイカより少し大きい小さなイカの内臓ごと丸干しと、マンボウの腸を干したコワダのうまさにおどろき舞い上がった。酒にもぴったりだし、大いに食べ飲んだ。開店早々の早い時間で客は私たちだけ、ウマいウマいと、わいわいはしゃぎながら飲んだ。私は酔ったが、まだ正体を失うほどではなかった。
 つぎに行く店は、鬼灯のおかみさんがおすすめの、中華料理「新華園本店」だった。鬼灯を出て、長屋の端に近い鬼灯から、反対の端へ向かって歩いているあいだに、私だけ遅れ気味になっていた。ふらふら歩いていると、長屋の一軒から、二人の若い男が、肩を組んで元気よく路上にあらわれた。
 彼らは、何か叫んでいた。私が呼びとめられたのか、私が呼びとめたのか、そのへんはよく覚えていない。とにかく三人で並んで肩を組むように、あるいは歩きながら輪になって、叫んだ。
 そのとき、私のなかに沈殿していた何かが湧きあがり、「理解フノー、理解フノー」と叫んでいたのだ。彼らに「どこから来たんですか?」と問われても、「理解フノー」と叫んでいた。
 若者たちは、私たちが連れて行ったのか、彼らが勝手に付いて来たのかさだかでないが、新華園本店でも一緒のテーブルで飲みかつ食べた。なんだかわけのわからないニギヤカな成り行きのなかで、私は「理解フノー」を、「ぼくらはみんな生きている」のメロディにのせて「ぼくらはみんな理解フノー、生きているから理解フノー」と、繰り返しうたっていた。……

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■目次
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「理解フノー」の始まり
ウマソ~
健康と酒と妄想と
右と左
何もしなくていいじゃないか
かわいいコワイ
あとをひく「つるかめ」の感傷
わが「断捨離」歴
五十年目のタワゴト
十年後
「文芸的」問題
『四月と十月』からエロへ転がり
クサイ話
七十二と七十
ダンゴムシ論
フリーライター
気取るな! 力強くめしを食え!
坂戸山
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僕の遠藤哲夫  田口順二
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