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『小川未明 人と童話  上笙一郎児童文学研究』
本書の詳細

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■ 本書より
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刊行にあたって
 滔々と流れる大河も、流れを遡っていけば、水がわき出す源に辿りつくことができる。
 児童文学の作家研究、書誌研究、評論、児童出版美術研究、挿絵論、童謡論、子守唄研究、児童史研究など、広大な領域を文学や民俗学、歴史学、社会経済学などの知見を駆使しながら自在に逍遥し、児童文化・児童文学研究にとって、悠然と流れる大河にも似た存在だった上笙一郎氏(一九三三年二月一六日~二〇一五年一月二九日)の研究にも、始まりとなる最初のひと滴は存在する。
 一九五四年、二一歳の時に上氏の文筆活動は始まるが、一九五六年四月、上氏は菅忠道の『日本の児童文学』を読んで大きな衝撃を受け、児童文学研究を生涯歩むべき道として見定めることになる。児童文学研究を自身の進むべき道として見定めた上氏は、この年の三月に高円寺の小川未明宅を初めて訪ねていたが、十一月には新潟県高田市(現・上越市)の春日山神社に建てられた小川未明詩碑の除幕式に参列している。
 上氏が児童文学研究の道を本格的に歩み始めるのは、一九五八年である。この年に、『日本児童文学』誌上などで児童文学作家・評論家の古田足日と小川未明をめぐって論争。鳥越信、山中恒、いぬいとみこらをメンバーとして発足した「児童文学実験集団」に参加。そして、古田足日の推薦で日本児童文学者協会に入会している。上氏の児童文学研究者としての本格的な歩みは、古田との小川未明をめぐる論争から始まったと言っても過言ではないことがわかる。
 そもそも、児童文学研究の道を歩み始めることを決意した当初から、上氏の脳裡に研究対象として小川未明が明確に浮かんでいたことは想像に難くない。少年だった上氏に〈文学開眼〉をしてくれたのは小川未明の童話であり、最初に読んだ童話が『赤い蠟燭と人魚』だったのである。上氏の児童文化・児童文学研究は、小川未明研究を源として大地に流れ出し、やがて幾多の領域を経巡りながら、滔々たる大河となっていったのである。
 そこで、上氏の三回忌にあたる今年、上氏の児童文化・児童文学研究の始まりのひと滴である小川未明研究を確認することによって、上氏の研究を継承して発展させ、同時に上氏の追悼を行う目的で本書は企画された。
 上氏が遺した膨大な研究をどのように継承し、どのように発展させていくのか模索する上で、上氏の研究の始まりのひと滴である小川未明研究と向き合うことは、上氏の研究の本質を探る上で重要な意味を持つものと思われる。上氏の小川未明研究は、児童文学研究という狭い枠に収まり切らない広さと深さを備えている。研究手法としては、文学研究の他に民俗学、歴史学、経済学などを援用している。広大な森に聳える一本の大木として小川未明をとらえ、未明という木が根を生やす土壌や覆っていた空気にも目配りしながら、小川未明という対象に迫ろうとしている。
 以上の刊行の趣旨から、本書は、上氏の小川未明に関する主な論考を収録し、上氏の研究の本質とその研究が持つ広さと深みを理解することに努めている。(後略)

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■目次
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刊行にあたって
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未明伝
戦後の小川未明の思想
未明童話の本質―『赤い蠟燭と人魚』の研究
「牛女」にみる北国の女性―小川未明と新潟県
二つの児童文学について―芸術的児童文学と大衆的児童文学
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上笙一郎という〈宇宙〉―上笙一郎、人と仕事加藤理
上笙一郎年譜尾崎るみ編
上笙一郎著作目録尾崎るみ編
解題加藤理
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